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家計の高貯蓄と実にうまく噛み合うことによって、敗戦で焼け野原と化した一九四五年から、日本はあっという間に世界でナンバー2の経済規模を持つに至ったのである。
つまり家計が一生懸命貯蓄に励み、莫大な預貯金が蓄積される。
それを企業が一生懸命借り入れて、新商品の開発や設備投資に投じてきたのである。
五○年前に日本経済が世界のナンバー2になることを想像した人は世界中に誰一人いなかったはずだが、結果はまさにそれが現実のものとなったのである。
この間、企業の借金は当然のことながら大変大きなものとなったが、彼らの所有する資産の価格はそれよりさらに高騰し、日本の企業や金融機関はムーディーズやスタンダード&プアーズなどの世界中の格付け機関から最高の格付けを受けていたのである。
ところが、一九九○年のそれこそ最初の一日からバブルが崩壊し、資産価格の暴落が始まった。
多くの株価はピーク時の数分の一となり、絶対間違いないと信じられていた土地の値段が、六大都市の商業地でピーク時の八三%ダウン、つまりピークの時の値段の一七%の価値しかなくなってしまった。
ゴルフ会員権に至っては一○分の一という事態になっている。
Mに、どのくらい日本の資産価格が下がったかをグラフで示したのでご覧いただきたい。
なにしろ日本の企業は七○〜八○年代に莫大なお金を借り入れて、さまざまなかたちで事業に投資してきた。
その借金がまだ残っている。
借金が残っているのに、それに見合うはずの資産の価格が大暴落してしまったのである。
ということは企業の財務内容、つまりバランスシートは大変なことになってしまったわけで、しかもこれだけ大幅に資産価格が下がってしまうと、債務超過、あるいはそれに近いような状況に置かれている企業は、日本国中で何十万、もしかしたら何百万という数にのぼっているかもしれない。
これらの企業にとって、自分たちが持っている資産より負債のほうが大きくなっているということは、それはもう立派な倒産状態ということになってしまうのである。
ではこれらの企業の本業のほうはどうかというと、こちらはまだ頑張っている。
日本がまだ世界最大の貿易黒字国であるのは、世界中の消費者が日本製品を買いたがっているからであって、その意味で本業はまだしっかりしていると言っていい。
ところが本業で頑張っているにもかかわらず、財務内容、つまりバランスシートの方はガタガタという企業が、今日本中で大変な数にのぼっているのである。
このような状況に置かれた企業家、経営者がどういう行動をとるかと言えば、それは本業で上げた収益で、極力、借金の返済を急ぐという行動だろう。
借金が膨大でそれに見合う資産がわずかしかない企業でも、とにかく借金をどんどん減らしてさえいけば、資産価格がマイナスになることはないから、どこかで必ずバランスを修復することができる。
そしてバランスを修復して、倒産状態から脱却した時には、また元気よくやっていこうという気持ちにもなるだろう。
これは個々の企業の行動としては当然の選択である。
本業は元気だがバランスシートはメチャクチャという企業が、本業で上げた利益でバランスシートを可能なかぎり早く修復しようとするのは、極めて正しい責任ある行動である。
これは日本だからというのではなく、台湾でもアメリカでもドイツでも、このような状況に置かれた経営者はみんな同じ行動をとるだろう。
実際に二○○一年になってから、世界的にITバブルが崩壊した結果、それまでイケイケドンドンでやっていた米国や台湾の多くの企業が、それまでの利益の最大化から財務内容の健全化に経営の軸足を移している。
問題は、こうした正しく責任ある行動を、多くの企業が一斉にやり始めた時に、いったいどういう事態が経済全体に生じるかということである。
当然のことながら企業は消費や投資を極力抑制して、そこで浮いた資金を借金返済に回すことになる。
ということは、その資金を企業が設備投資や新商品開発に使っていた状況に比べ、経済全体の需要は減少する。
そうなると当然景気は、企業がこれまで通りお金を借りて使っていた状態に比べ悪化する。
景気が悪化すると資産価格はさらに下がる。
しかし、資産価格がさらに下がると、企業のバランスシート問題はいっそう悪化するので、企業側はコスト削減と借金返済努力をいっそう強化しようとする。
しかし、みんながそのような行動をとればとるほど需要は落ち込み、景気は雪だるま式に悪化していくのである。
つまり個々の企業は正しく責任ある行動をとっているにもかかわらず、それをみんなが同時にやった結果として、景気が悪循環に陥り、どんどん悪くなっていくということは充分にありうる話なのである。
みんなが正しいことをやっているにもかかわらず、結果が逆に出てしまうということを「合成の誤謬」と言うが、今の日本経済はまさにそのような状況に陥っているのである。
このグラフは、日本経済を、家計、企業、海外など主要分野に分け、それらの分野のお金の動きを見たものである。
具体的にはゼロよりも上が貯蓄をしている分野で、ゼロよりも下がお金を借りて投資している分野である。
このグラフのベースになっている資金循環統計は、これらの分野をすべて足し合わせるとちょうどゼロになるようにつくられているが、本グラフでは線の数を減らして見やすくするために金融部門は省いている。
したがってそのまま足してもゼロにはならないが、金融は中長期的には中立なので、省略しても特に問題はないと思われる。
これを見ると家計が一番上にあって、ここがゼロより上であるということは、前述の二つの車輪の一つである高貯蓄は今でも健在であることを示している。
しかもこの家計の貯蓄行動は、この一○年間ほとんど変わっていない。
一九九○年、日本がバブルの絶好調だった時期も一○年後の一九九九年も、家計はGDP比で七〜八%の貯金をしていた。
ということは、この一○年間、家計はほとんど行動を変えていないということだ。
しかもこの一○年間はゼロ成長、ゼロインフレだから貯蓄の金額も同じなのである。
つまり景気が大変良く、ジャパン・アズ・ナンバー・ワンと世界中でもてはやされたバブル期も、景気が悪化し日本経済が世界中でボロクソに言われる現在も、個人の貯蓄行動にほとんど変わりはないのである。
貯蓄が不変で、経済成長率もインフレもゼロということは、個人消費もほとんど変化がなかったということになる。
実際、この一○年間の消費はほとんどフラットである。
この間の消費はそれ以前のように大きく伸びてはいないが、大きく落ち込んだわけでもないのである。
もしもK内閣が主張するように、国民が本当に将来に不安感を抱いて、これから大変なことになると思っているのなら、消費はどんどん落ち、その一方で貯蓄は増えているはずだが、現実には両方ともこの一○年間ほとんど変化していない。
消費を抑えているから景気が弱いという議論は、明らかに間違っているのである。
では、この一○年の間に、何が起きて景気がこんなに弱くなってしまったのか。
何が原因で、あれだけ勢いのあった日本経済が急激に失速状態になってしまったのか。
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